世界遺産に指定された熊野古道がある熊野(くまの)は、和歌山県南部と三重県南部からなる地域で、紀伊半島南端部を占めます。
世界遺産である田辺市の熊野本宮大社・新宮市の熊野速玉大社・那智勝浦町の熊野那智大社からなる熊野三山は熊野信仰の中心地、パワースポットとして国内はもとより世界中からも訪問者を引き寄せています。
熊野という地名は出雲国の熊野(現 島根県松江市熊野)の名が移されたとの説もあります。
(一本だたら)
この熊野三山一帯に室町時代から伝わる伝説の一つに、一本だたら、一本踏鞴(いっぽんだたら)、一つだたら(ひとつだたら)という盗賊の話があります。
身の丈、約9メートル。怪力無双の化け物のような大男で、さらにひとつ目で、手も足も一本、疾風のように現れることから妖怪とも見なされていたようです。民家を襲うので、熊野三山一帯では死活問題となりました。
腕に自信のある何人かの武士が、この盗賊退治に山へ入りましたが、帰ってきた者はありませんでした。
噂では、身体は鉄か岩石のようで矢もはね返すとのことでした。
あるとき、樫原(かしはら)の善兵衛さんの家に見るからにがたいの良い刑部(ぎょうぶ)という落武者らしい若者が滞在していました。人情も厚く、文武両道に優れていました。
刑部は、村人たちの困惑を見かねて、自ら怪物退治を申し出て、善兵衛さんを道案内に、まず那智権現さんに祈願して奥山へ入りました。
山に入って四日目、にわかに西の空から轟音が起こり、噂通りの怪物が刑部たちを襲って来ました。
刑部は、落ち着いて盗賊の大きなひとつ目めがけて一矢を放つと見事に射抜きました。
刑部には、この功労により、那智山から寺山三千町歩(ちょうぶ)と金百貫、本宮からも金百貫が贈られました。しかし刑部は色川郷(いろかわごう)十八ヵ村に寄付して、村人から大いに感謝されました。
やがて、刑部、刈場刑部左衛門(かりばぎょうぶざえもん)は、色川の守り神として祀られ、その神社は樫原(かしはら)にあります。
この話は、永享(えいきょう)七年(1935)、室町時代の出来事で、刑部は平家の一族と言い伝えられています。
目がひとつ、手も足も一本、その理由は定かではありませんが、日本の多くの地域で山の神は一本足、というイメージがあったようで、同じように言い伝えられるにはなにか理由があったと考えられます。
和歌山県西牟婁郡(にしむろぐん)では、カッパの一種である「ゴーライ」が山に入ると、山童(やまわろ、やまわらわ)の一種である「カシャンボ」となり、このカシャンボのことを一本だたらと呼んでいるようです。山童とは九州〜西日本に伝わる山の妖怪のことです。
(山童・水木しげるロード)
2004年春には、和歌山県田辺市の富田では地域の田で1本足の足跡が発見され、「富田のがしゃんぼ」と呼ばれ、一本だたらやカシャンボの復活かと話題になったことがありました。自分は仕事でよくこの地に赴きましたが、それほど田舎というところでもないので驚きです。
田辺の闘鶏神社は熊野三山の別宮的な存在で、富田川流域は水田が多く広い平野があり、上富田町には熊野高校があります。
この伝承の元がなにか分かりませんが、和歌山に限らず、あちらこちら、さらに中国にも、ひとつ目で、手も足も一本の妖怪の伝説があるのは奇々怪々です。
(一本だたら)
熊野古道ウォークと合わせて、山と川に囲まれた大自然の中、歴史ある名湯を存分に味わってください。癒しと蘇りの温泉を楽しめます。
「湯の峰温泉」「川湯温泉」「渡瀬温泉」・・・3つの温泉が湧くこの地域は、世界遺産・熊野本宮大社のお膝元にある温泉郷。
(川湯温泉)
なかでも「川湯温泉」は、全国でも珍しい温泉なので、是非試す価値ありです。熊野川支流の大塔川にあり、川原を掘ればたちどころに露天風呂ができます。
夏は清流で川遊びを楽しみ、例年冬(12月~2月)には川底を掘り、湧き出た湯をせき止めてつくる露天風呂「仙人風呂」が開かれ、野趣あふれる冬の風物詩として親しまれています。
(つぼ湯)
「湯の峰温泉」は約1800年前に発見されたという日本最古の温泉、熊野へ詣でる前に、湯垢離場(ゆごりば)として身を清め、長旅の疲れを癒したとされる由緒ある温泉です。趣のある旅館・民宿が軒をならべた静かな温泉街で世界遺産に登録された「つぼ湯」が有名。画像のようにふたりが限度のつぼのような風呂です。温泉街にある公衆浴場という位置付けです。
「渡瀬温泉」は、西日本最大級の大露天風呂が自慢です。
熊野の名産として人気なのが、「但馬牛」の血統を取り入れて品種改良された「熊野牛」は、米沢牛や松阪牛に匹敵するほどの柔らかさと焼いたときの香りのよさに定評があります。
また「めはり寿司」が人気です。めはり寿司は和歌山県と三重県にまたがる熊野地方、および奈良県吉野郡を中心とした吉野地方の郷土料理で、いわゆる酢飯で作る寿司というよりは、白米を高菜の浅漬けの葉でくるんだ弁当用のおにぎりで、熊野名産とされ、新宮市のものは特に有名で、和歌山県の特産品として和歌山県推薦優良土産品に指定されています。熊野地方の山仕事や農作業で食べる弁当としてはじまったと伝えられています。
ひとつ目妖怪が棲む熊野の絶品にぎりをお楽しみください。
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